短期記憶は心理学の舞台から消えていく。【2005年読んだ本10位】 | しんりの手 :psych NOTe

短期記憶は心理学の舞台から消えていく。【2005年読んだ本10位】

noSTM


【2005年読んだ本10位】「心をなす物質」(ヘイルマンKeneeth Heilman, M.D.著)(アマゾン:Matter of Mind: A Neurologist's View of Brain-Behavior Relationships


この本で著者は、生体的に脳の部位から見た心の活動の仕組みをまとめている。うーん、うまく説明できてないな。つまり、心理学では大抵が理論的なモデルが先行して、脳の活動の生物学的な説明は後付けだ。でもこの本では生物学的な説明が成り立つ理論に重きを置いている。結果、生物学的な説明の薄い心理学の理論は拒否されている。


例えば、記憶の理論についてこの本では、短期記憶という概念を除外している。これには僕も賛成。

この本によると、記憶の基本システムは4つだけだ:作動記憶(working memory)、宣言的記憶(declarative memory)、意味記憶(semantic memory)、手続き的記憶(procedural memory)、の4つ。ただし、このほかにも2次的な記憶システムはある。以下の説明はこの本を中心に少し僕の理解を付け足したもの。


作動記憶は情報の一時的な保管をする記憶。前頭野(frontal lobe)の左は言語記憶(verbal working memory)に重要。前頭野の右は空間記憶(spatial working memory)に重要。従来言われた短期記憶は、この作動記憶の一部とも理解できるな。


宣言的記憶に記憶されるのは「何、どこ、いつ」などの情報だ。宣言機器記憶は言語で記憶されてもよいし、言語以外の視覚情報などで記憶されてもよいし、古い情報でもいいし、新しい情報でも良い。パペツ回路(Papez circuit, hippocampus-fornix-mammillary bodies-thalamus-cingulate gyrus-retrospenial cortex-hippocampus)がこの記憶に大事な部分だ。


意味記憶は「知識」(knowledge)とも呼ばれる。これは側頭部(temporal regions)や頭頂部(parietal regions)に記憶される。意味記憶は宣言的記憶(特に従来の言葉で言うとエピソード記憶)の積み重ねにより形成される、物事の共通性などの知識だ。例えばA君は先週もクラスで一人だけあの問題を解けた。今週もだ。というエピソードの共通性から生まれる知識「A君は頭がいい」というのが意味記憶だ。スキーマ、概念などはこの意味記憶の中にくくられる。

意味記憶と言語的な宣言的記憶は左脳(脳の左半球)に記憶され、空間的な記憶は右脳に記憶される。


手続き記憶は「どうやってするか」(how)の記憶だ。この記憶と脳の関連はまだあまり分かっていないが、基底核(basal ganglia)と大脳皮質(cortex)が重要なようだ。




というのがこの本のある章の内容なんだけれど、とても面白い。まず心理学で長年使われてきたモデルを否定しちゃっているのがびっくり。つまり


【古くて誤り】 感覚→短期記憶→長期記憶


【新しいモデル】 感覚→長期記憶

  又は      感覚→作動記憶→長期記憶

こんなかんじだろうか。これは最近の認知心理学ではよく言われている。で、この本の言葉で言うと、宣言的記憶、意味記憶、手続き的記憶、の3つが従来の長期記憶に該当するんだろうな。短期記憶はお払い箱という案は最新の文献の裏付けがいくらでもあるのでそのうちに紹介します。


でも僕もよく混乱するのは、短期記憶を記憶モデルから外している研究者でも、別の意味で「短期記憶」(short term memory, or primary memory)という言葉を別の機能を指す言葉で使ってたりするんだよな。作動記憶の一部の機能とかに。なんで、文献を理解するときも訳すときも2つの言葉(短期記憶と作動記憶)がごっちゃになることはしょっちゅうです。気をつけとこう。


あとこの本は記憶だけでなく他の脳の機能(言語、感情、注意、自己認識、認知ー動作、など)も、生物学的な視点から解説している。心理学の(過去の)教科書では見られないモデルばかりなんで心理学を知る者にとってはとても面白い。多分、この本に書いてあるモデルのほうがより正しいのだろうと思う。心理学をこれから学ぶ人にもお勧め。


引用元の本 

Kenneth Heilman
Matter of Mind: A Neurologist's View of Brain-Behavior Relationships

----------------------------

検索キーワード: 心理学、神経学、神経科学、認知神経科学、認知心理学、短期記憶、長期記憶、作動記憶、ワーキング・メモリー、STM、LTM, WM , 海馬、language, emotions, attention, self-awareness, memory, cogniteive-motor skills,